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梅雨明けを待つこの時期は、夏野菜が少しずつ存在感を増してきます。本日の日替わりランチは、鶏もも肉に大根おろしと柚子胡椒を合わせた一皿を主役に、季節の野菜を添えてまとめました。
副えるのは、茄子・かぼちゃ・獅子唐をだしに浸した夏野菜の揚げびたしと、モロヘイヤと山芋のおひたし。赤だしと白ご飯、きゅうり漬けとともにお出しします。
おひたしに使うモロヘイヤと山芋は、どちらも「ねばり」が持ち味ですが、その正体は少し違います。そのあたりは下の深掘りノートで掘り下げてみます。
鶏もも肉の柚子胡椒おろしポン酢
夏野菜の揚げびたし
モロヘイヤと山芋のおひたし
白ご飯
赤だし
きゅうりのぬか漬け
食品成分の数値は、文部科学省「食品成分データベース」を参考にしています。
いずれも可食部100gあたりの値で、実際の一食分の栄養量とは異なります。
鶏肉は参考として「若どり/もも/皮つき/生」、大根おろしは近い参考として「だいこん/根/皮なし/生」、きゅうり漬けは近い参考として「きゅうり/漬物/塩漬」の数値を掲載しています。
| 食材 | 成分表での食品名・条件 | 主な成分例 |
|---|---|---|
| 鶏もも肉 | 若どり/もも/皮つき/生 | 水分68.5g、たんぱく質16.6g、脂質14.2g、カリウム290mg |
| 大根おろしの参考 | だいこん/根/皮なし/生 | 水分94.6g、たんぱく質0.4g、脂質0.1g、食物繊維総量1.3g、カリウム230mg |
| 茄子 | なす/果実/生 | 水分93.2g、たんぱく質1.1g、脂質0.1g、食物繊維総量2.2g、カリウム220mg |
| かぼちゃ | 西洋かぼちゃ/果実/生 | 水分76.2g、炭水化物20.6g、食物繊維総量3.5g、β-カロテン当量2600μg、ビタミンC 43mg |
| 獅子唐 | ししとう/果実/生 | 水分91.4g、食物繊維総量3.6g、カリウム340mg |
| モロヘイヤ | モロヘイヤ/茎葉/生 | 水分86.1g、たんぱく質4.8g、食物繊維総量5.9g、カルシウム260mg、β-カロテン当量10000μg、ビタミンC 65mg |
| 山芋の参考 | ながいも/塊根/生 | 水分82.6g、たんぱく質2.2g、炭水化物13.9g、食物繊維総量1.0g、カリウム430mg |
| きゅうり漬けの参考 | きゅうり/漬物/塩漬 | 水分92.1g、たんぱく質1.0g、脂質0.1g |
| 食材 | 成分・栄養素の手がかり |
|---|---|
| 鶏もも肉 | たんぱく質と脂質を含みます |
| 大根おろし | 水分が多く、ビタミンCや、でんぷんの分解に関わる酵素を含みます |
| 茄子 | 水分が多く、皮にナスニンと呼ばれる色素成分を含みます |
| かぼちゃ | β−カロテンやビタミンE、炭水化物を含みます |
| 獅子唐 | ビタミンCやβ−カロテンを含みます |
| モロヘイヤ | β−カロテンやカルシウム、粘りのもとになる食物繊維を含みます |
| 山芋 | でんぷんと、それを分解する酵素、粘りの成分を含みます |
モロヘイヤと山芋、同じ「ねばり」でも来歴はまるで違う
ひと皿のおひたしに、性格の異なる二つのねばりが同居しています。並べてみると、それぞれの素性がなかなかおもしろいのです。
まずモロヘイヤ。実はこの野菜、和名を「シマツナソ(縞綱麻)」といい、麻袋やひもの原料になるジュート(黄麻)の親戚にあたります。おひたしの正体が麻袋の遠縁――と聞くと、ちょっと見る目が変わります。名前の由来も少し大げさで、その昔、重い病を患ったエジプトの王様がモロヘイヤのスープで回復したという言い伝えから、アラビア語で「王家のもの」を指す言葉が変化し、「王様の野菜」と呼ばれるようになったとされます。エジプトでは今も愛され続けていて、モロヘイヤを刻むためだけの専用包丁があるご家庭もあるのだとか。一枚の葉物のために専用の刃物を用意する、その熱量たるや相当なものです。
さて本題のねばり。モロヘイヤを茹でると出てくるとろみは、ムチレージと呼ばれる水溶性の多糖類――いわゆる水溶性食物繊維のなかまで、葉の細胞をこわすほどよく出てきます。栄養の面でも数字が立っていて、文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、モロヘイヤ(茎葉・生)は可食部100gあたりβ−カロテンを10000μg、カルシウムを260mg、食物繊維総量を5.9g含みます。うれしいことに、β−カロテンは加熱に比較的強く、さっと茹でても持ち味が残ります。一方でビタミンCは長く茹でると減りやすいので、おひたしの「さっと」にはちゃんと理由があるわけです。
対する山芋のねばりは、すりおろしたり切ったりして細胞をこわしたときに顔を出します。こちらは多糖とたんぱく質が結びついた成分が背景にあり、モロヘイヤとは成り立ちが別もの。さらに山芋はでんぷんを分解するアミラーゼという酵素を含むため、いも類には珍しく生のまま食べられます。とろろのあのなめらかさは、ねばりと酵素の合わせ技というわけです。ついでにもう一つ。山芋を扱うと手がかゆくなる、あの宿命。あれは料理の腕とは無関係で、シュウ酸カルシウムという成分の細かな針状の結晶が、皮膚をちくちく刺激するのが正体です。犯人がわかっても、かゆいものはかゆいのですが。
最後に、おひたしとしての表情を。モロヘイヤのねばりのもとである水溶性の多糖は熱に比較的強く、さっと火を通しても持ち味が残ります。対して山芋の酵素は熱に弱く、加熱すると働きがやわらいで、生のキレからふんわりとした口当たりへ表情を変えます。だしをまとわせれば、二つのねばりがそれぞれにだしを薄く抱え込み、ひと口ごとに香りを運んでくれます。由来も、熱への向き合い方も、だしとのなじみ方も違う二つの粘り。そう思って箸をのばすと、地味なおひたしが急に多弁に見えてきます。
【用語メモ】
・ムチレージ:植物がもつ、水になじみやすい粘り成分(多糖類)。モロヘイヤのとろみのもと。
・β−カロテン:緑黄色野菜に多い色素成分。体内で必要に応じてビタミンAに変わる前駆体として知られ、加熱に比較的強い。
・アミラーゼ:でんぷんを分解する酵素。山芋が生で食べられる背景にあるもののひとつ。
・シュウ酸カルシウム:山芋などに含まれる成分。細かな針状の結晶が、扱うときのかゆみのもとになる。

