鯛の刺身
回鍋肉
ブロッコリーの胡麻マヨ和え
白ご飯
赤だし
高菜漬け
鯛の刺身に潜む、うま味と食感の時間差
白身の代表格ともいえる鯛。見た目は淡白でおとなしい印象ですが、水揚げ後に身のなかで進む変化は、なかなか味わい深いものがあります。
釣り上げてすぐの鯛は、実は身がコリコリと硬め。これは筋肉がまだ張っている状態で、いわゆる歯ごたえ重視の食感です。ところが時間の経過とともに、身のなかのATP(生き物のエネルギーの通貨のような物質)が段階的に分解され、最終的にイノシン酸といううま味成分へと姿を変えていきます。つまり、コリコリの食感が少しずつやわらぎながら、代わりにうま味がじわりと増していくのです。食感のピークとうま味のピークが同じタイミングで来ないところが、白身魚の面白いところですね。
このあたりは料理人がその日の状態を見ながら、どの表情の鯛をお出しするかを選ぶ部分でもあります。歯ごたえを楽しみたい時と、うま味を味わいたい時で、同じ鯛でも見せる顔が違ってきます。
鯛の切り身をよく見ると、ほんのりピンク色に見えることがあります。これはマグロのような血合いの赤とは別物で、鯛の場合はアスタキサンチンという色素成分が関わっているといわれています。鯛はエビやカニに含まれるこの色素を食べ物から取り込み、体表や身にうっすら反映させることがあるのです。「海老で鯛を釣る」という言葉がありますが、鯛の淡い色合いの一部が、まわりまわって甲殻類由来という説を知ると、ことわざが少しだけ生々しく感じられます。エビは釣り餌としてだけでなく、色の面でも鯛に一役買っているのかもしれません。
栄養の面から眺めると、鯛はたんぱく質を含み、脂質が控えめな白身魚として知られています。淡白と言われるのは、この脂質の少なさと、イノシン酸を中心としたすっきりしたうま味の印象によるところが大きいでしょう。刺身という調理法は、この繊細な味わいと食感の変化を、そのまま受け止めてお出しできるのが持ち味です。
【用語メモ】
・ATP:生き物の細胞がエネルギーをやり取りする際に使う物質。時間の経過とともに分解が進み、うま味成分の元になります。
・イノシン酸:かつお節などにも含まれるうま味成分。魚の身のなかで生成されます。
・アスタキサンチン:エビやカニ、鮭などに見られる赤系の色素成分。食物連鎖を通じて他の生き物にも取り込まれます。