食品成分の数値は、文部科学省「食品成分データベース」を参考にしています。
いずれも可食部100gあたりの値で、実際の一食分の栄養量とは異なります。
豆ご飯にはうすいえんどうを使用していますが、成分表では近い参考として「グリンピース/冷凍/ゆで」の数値を掲載しています。
| 食材 | 成分表での食品名・条件 | 主な成分例 |
|---|
| 海老 | バナメイえび/養殖/生 | 水分78.6g、たんぱく質19.6g、脂質0.6g |
| 玉子 | 鶏卵/全卵/生 | 水分75.0g、たんぱく質12.2g、脂質10.2g、ビタミンD 3.8μg |
| 蟹 | ずわいがに/ゆで | 水分82.5g、たんぱく質15.0g、脂質0.6g |
| 豆 | グリンピース/冷凍/ゆで | 水分74.6g、たんぱく質6.2g、食物繊維総量10.3g、鉄1.7mg |
海老は、水分とたんぱく質を含み、脂質が比較的少ない食材として扱われることがあります。
天ぷらでは、衣と油の熱が加わることで、淡い身に香りと食感の変化が生まれます。
玉子は、水分、たんぱく質、脂質を含む食材です。
卵豆腐では、だしを含ませて蒸すことで、玉子のたんぱく質がやわらかく固まり、口当たりに関わります。
蟹は、たんぱく質を含む魚介類です。
卵豆腐に加えることで、玉子やだしとは違う海の香りが重なります。
豆ご飯の豆は、たんぱく質や食物繊維を含む食材です。
ご飯の中に青い香りとほのかな甘みを添えてくれます。
かにの卵豆腐に起こるゲル化と、だしあんのとろみ
かにの卵豆腐で注目したいのは、玉子がだしを抱え込んで固まるしくみです。
見た目は静かな蒸し物ですが、中では玉子のたんぱく質、だしの水分、蟹のうま味、だしあんのとろみが細かく関わっています。
まず大切になるのが、タンパク質変性とゲル化です。
タンパク質変性とは、熱などによってタンパク質の形や性質が変わることです。
ゲル化とは、たんぱく質などが網目のような構造を作り、その中に水分を抱え込んで、やわらかく固まる現象です。
文部科学省「食品成分データベース」では、「鶏卵/全卵/生」可食部100gあたり、水分75.0g、たんぱく質12.2g、脂質10.2gとされています。
玉子は水分を多く含みながら、加熱によって形を持つことができる食材です。
卵豆腐では、ここにだしが加わるため、玉子液全体の水分量はさらに増えます。
水分が増えると、玉子の固まり方はやわらかくなりやすくなります。
ただし、火が強すぎたり、加熱が長すぎたりすると、たんぱく質の網目が締まりすぎ、水分が外へ出やすくなります。
この水分が外へ出る現象は、料理では「す」が入る、口当たりが粗くなる、といった印象につながることがあります。
卵豆腐は、玉子をしっかり固める料理というより、だしをどれだけなめらかに抱え込ませるかが大切な料理です。
蒸すという調理法は、焼くよりも熱のあたり方がやわらかく、玉子のたんぱく質をゆっくり変化させやすい方法です。
そのため、だしを含んだ玉子が、やわらかなゲルとしてまとまりやすくなります。
ここに蟹が加わると、風味の層が変わります。
蟹には魚介らしい香りとうま味があり、玉子とだしだけでは出にくい海の印象を添えてくれます。
蟹そのものも水分とたんぱく質を多く含む食材で、卵豆腐のやわらかな口当たりの中に、別のうま味の輪郭を作ります。
さらに今回は、上にだしあんをかけています。
だしあんのとろみは、卵豆腐の表面にだしの風味をとどめる役割を持ちます。
さらりとしただしは流れやすいのに対して、とろみのあるあんは表面に留まりやすく、口の中でも香りとうま味がゆっくり広がります。
このとろみには、でんぷんの糊化が関わります。
糊化とは、でんぷんが水と熱を受けてふくらみ、とろみを作る現象です。
だしあんでは、だしのうま味にとろみが加わることで、卵豆腐のなめらかなゲルと一体になりやすくなります。
薄口醤油も、見た目以上に繊細な役割を持っています。
色を濃くしすぎずに塩味とうま味を添え、玉子とだしの淡い色合いを保ちやすくしてくれます。
味を強く前へ出すというより、だしと蟹の風味に輪郭を与える調味料です。
最後に添える木の芽は、香りの仕上げです。
木の芽の香りは少量でも印象が立ちやすく、玉子、だし、蟹の穏やかな風味に、青く清らかな輪郭を添えます。
香りは量ではなく、立ち上がり方で料理全体の印象を変えることがあります。
かにの卵豆腐は、玉子のゲル化、だしの水分保持、蟹のうま味、だしあんの糊化、木の芽の香りが重なる一品です。
派手な料理ではありませんが、熱、水分、とろみ、香りが細かく設計された、和食らしい静かな科学があります。
今日の一品を、そんな小さな食材の変化とともに楽しんでいただければと思います。