鶏肉のトマト煮
かぼちゃの煮物
バンサンスー
白ご飯
赤だし
きゅうりのぬか漬け
| 食材 | 成分・栄養素の手がかり |
|---|
| 鶏肉 | たんぱく質 身体づくりに関わる栄養素として知られています |
| トマト | リコピン・カリウム 赤い色みのもとになる成分を含みます |
| かぼちゃ | β-カロテン・食物繊維 鮮やかな色みと甘みを支える成分を含みます |
| きゅうり・春雨 | 水分・炭水化物 軽やかな口当たりの背景にあります |
煮込みや酢の物、だしといった複数の調理法が組み合わさることで、味わいの幅が広がる献立です。
鶏肉のトマト煮に潜む、リコピンと油と加熱の三角関係
トマトの赤い色みのもとになっているのが、リコピンという色素成分です。カロテノイドという色素グループの仲間で、緑黄色野菜や果物の色を作る立役者。栄養学の分野でも注目されている成分のひとつで、トマトらしさを形づくる背景にあります。
このリコピン、面白いのが「油と一緒だと吸収されやすくなる」と言われている点です。水にはあまりなじまず、油になじみやすい性質を持っているため、生のトマトをそのまま食べるより、油を使って加熱した料理のほうが体に取り込まれやすいと考えられています。今回のトマト煮は、鶏肉から出る脂とトマトがじっくり寄り添う調理。まさにリコピンにとっては相性のいい環境が整っているわけです。トマトからすれば、鶏肉の脂は頼れる相棒といったところでしょうか。
さらに加熱によって、リコピンの分子の形が一部変化することも知られています。トマトの細胞壁がやわらかくほどけ、中の成分が外へ出やすくなることも重なって、煮込みという調理は味だけでなく成分の面からも理にかなっているのです。ことこと煮る時間は、ただ柔らかくするだけでなく、成分が動き出す時間でもあります。
そして煮込みのもうひとつの主役が、うま味。トマトにはグルタミン酸が、鶏肉にはイノシン酸が含まれています。この二つが出会うと、うま味を強く感じる「相乗効果」が起こると言われています。昆布と鰹節の合わせだしと同じ原理が、実はトマトと鶏肉の鍋の中でも静かに進行しているのです。洋風の煮込みなのに、どこか和のだしに通じる懐の深さがあるのは、このあたりに理由があるのかもしれません。
トマトはかつてヨーロッパで、長らく観賞用の植物として育てられていた時期がありました。当時使われていた食器に鉛が含まれていて、トマトの酸が鉛を溶かしてしまったことが「トマトは危ない」という誤解を生んだ、という説が伝わっています。トマトは無実で、むしろ食器のほうに問題があったわけですね。濡れ衣を晴らすまで、ずいぶん長い時間がかかった食材です。
味の面から見ると、玉ねぎを加えることで生まれる甘みも見逃せません。加熱によって玉ねぎの辛み成分が穏やかになり、糖の甘さが前に出てくる。トマトの酸味と鶏肉のうま味、玉ねぎの甘みが層になって、オレガノの香りが全体の輪郭を添えます。成分の話から入っても、最後はやっぱり、一皿の味わいに着地するのが料理の面白いところです。
【用語メモ】
・リコピン:トマトなどの赤い色みを作るカロテノイド系の色素成分。油になじみやすい性質を持ちます。
・カロテノイド:植物などに含まれる、赤や黄色の色素の総称。
・うま味の相乗効果:グルタミン酸とイノシン酸が組み合わさると、うま味をより強く感じるとされる現象。