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肉じゃがの無水調理に見る、玉ねぎの水分とうま味の移り変わり
今回の肉じゃがも、水を加えずに煮る無水調理で仕上げています。「水を入れないのにどうして煮えるの?」と思うところですが、ここで働くのが野菜自身が抱えている水分です。特に玉ねぎは重量のおよそ9割が水分で、文部科学省「日本食品標準成分表2020年版」でも、たまねぎ(りん茎・生)の水分は100gあたり約90gとされています。切って加熱すると、この水分が細胞の外へと出てきて、鍋の中で立派な煮汁の役割を果たします。
おもしろいのは、加熱すると玉ねぎが甘く感じられるようになること。生のときのツンとした刺激成分は加熱で揮発したり変化したりして影を潜め、代わりに素材本来の糖の甘みが前に出てきます。さらに牛肉から溶け出すうま味成分や脂が煮汁に移り、じゃがいもがそれをゆっくり受け止めていく。無水調理はこの「素材同士の水分とうま味のやり取り」を素直に味わえる煮方なんです。
じゃがいものでんぷんも見どころです。加熱によって水分を抱え込みながらふくらむ糊化という変化が起き、あの独特のほくほく感が生まれます。煮崩れしやすいのは、このでんぷんがやわらかくなった細胞同士をつなぐ力が弱まるため。やさしく煮含めるのは、うま味を入れつつ形を保つためでもあります。
肉じゃがで使われる牛肉と玉ねぎの組み合わせには、うま味の相乗効果という理屈が背景にあります。肉のうま味の主役であるイノシン酸と、玉ねぎにも含まれるグルタミン酸は、一緒になると単独のときよりもうま味を強く感じさせることが古くから知られています。だしの世界で昆布とかつお節を合わせるのと同じ発想が、実は家庭の煮物の中でもしれっと起きているわけです。
また、肉じゃがといえば「ある海軍の料理が起源」という話がよく語られますが、実のところ最初はビーフシチューを作ろうとした説があるとか。デミグラスソースもワインも手元になく、醤油と砂糖で代用したらこうなった……という説で、真偽はさておき、洋食への憧れが和の煮物に化けたと思うと、鍋の中のじゃがいもがちょっとだけ国際派に見えてきます。
【用語メモ】
・無水調理:水を加えず、食材自身の水分で加熱・調理する方法。
・糊化:でんぷんが水分と熱を得てやわらかくふくらみ、消化しやすくなる変化。
・うま味の相乗効果:イノシン酸とグルタミン酸など、異なるうま味成分が合わさると、うま味をより強く感じる現象。